W.H.Oは従来の性病(梅毒、淋病、軟性下疳、鼠径肉芽腫)に、性行為あるいは性行為類似行為によって感染する各種疾患を総称してS.T.D(Sexually Transmitted Disease 性感染症)と定義した。
STDには数多くの感染症があり、クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、トリコモナス感染症、梅毒、HIV感染(エイズ)などが含まれる。
かつて二大性病と言えば梅毒、淋病がその代表で、過去には多くの感染者が存在していた。
しかし20世紀に入り、抗菌薬や化学療法の進歩により上記二大性病は激減した。
それに代わり、21世紀はクラミジア(Chlamydia)、ヒト乳頭腫ウィルス(human pappilloma virus HPV)、ヒト免疫不全ウィルス(human immunodeficiency virus HIV)が三大性病として世界的に大流行しつつあることが指摘されている。
これらの感染症はいずれも症状のでることが少なく、最近ではS.T.Dという名称以外にS.T.I(Sexually Transmitted Infection 性感染)と表現する方が病態をより正確に反映しているという意見が増加している。
STDとして定義されるものは上記以外にも数多くあるが、その中でも代表的なものについて表1にまとめて示した。
以後、疾患ごとについて詳細な説明を加える。

表1
名 称
特  徴
症  状
梅毒
淋菌感染症
クラミジア感染症
性器ヘルペス
尖圭コンジローマ
HIV感染症
(エイズ)
トリコモナス膣炎
カンディダ感染症



◆梅毒

梅毒の病原体であるTreponema pallidumは右巻きの螺旋構造を持ち、長さは約11μmの細菌である。
梅毒は、前述の如く、かつてはSTDの代表とも言える疾患であったが、サルバルサンの登場以来、数多くの優れた化学療法剤や抗菌薬の開発により現在ではほとんど見られなくなった。
梅毒は一旦感染すると特有の臨床経過を呈しながら症状が進行する。
尚、梅毒の進行期別の症状を以下に示した。

a、第1期

感染より3ヶ月を指す。
感染後、約3週間後に感染局所に初期硬結ができ、まもなく潰瘍化し硬性下疳となる。
陰唇部、膣粘膜、膣入口部などに見られ、自覚症状はないが、これらの浸出液中にTreponemaが検出される。
その後鼠径リンパ節の無痛性の腫張が見られ、これを無痛性横痃と言う。

b、第2期

感染3ヶ月から3年を言い、皮疹、粘膜疹が見られる。
梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、膿疱性梅毒疹、梅毒性粘膜疹、梅毒性脱毛症などがあるが、丘疹の1つである扁平コンジロームがよく知られている。
陰唇、肛門周囲、乳房などに見られるが、浸潤面からの浸出液にはTreponemaが検出され、感染源となる。

c、第3期

感染3年から10年を指す。
2期で見られた皮疹は消失し、潜伏して第3期となる。
結節性梅毒、ゴム腫などが形成される時期である。

d、第4期

感染10年以降を指し、神経系や心血管に病変が及ぶ。
進行麻痺や脊髄癆などの神経梅毒、動脈炎や動脈瘤などの心血管梅毒などがある。

・判定基準

梅毒のルーチン検査として、ガラス板法及びTPHA法の二法を同時に行って判定する。
しかし、この二つの検査は、生物学的疑陽性を示すことが多いため、FTAーABS法による確認試験を行う。
また感染初期には特異IgM抗体が産生され、その後、特異IgG抗体が産生されるが、この特異IgM抗体をIgM−FTA−ABSやTP−IgM−EIAで測定することも可能になった。
感染による抗体陽性化の時期は、梅毒特異IgMを測定するFTA−ABS−IgMやTP−IgM−EIAが最も早く、感染後1週間位で検出される。
FTA−ABSはこの抗体とも反応するので陽性化するのが早く、続いて3週間くらいでSTSが、4週間頃にTPHAが陽性となる。

・治療

海外では未だにペニシリン系抗菌薬の注射療法が主流であるが、我が国では経口ペニシリン系抗菌薬による治療が一般的である。
現在我が国で梅毒治療が保険適用となっている経口剤はペニシリン、マクロライドとテトラサイクリン系の抗菌薬である。
経口ペニシリンでは、アンピシリン(ABPC、ビクシリン 1.5g/日)、アモキシシリン(AMPC、サワシリン 1.5g/日)がよく用いられている。 ペニシリンアレルギーのある患者に対してはマクロライドのエリスロマイシン(EM、エリスロシン 1200mg/日)、クラリスロマイシン(CAM、クラリス 400mg/日)やテトラサイクリン系のミノサイクリン(MINO、ミノマイシン 200mg/日)などが使用される。
治療期間は、初期であれば4週間で充分で、2期では4〜8週間を目途とする。

・妊娠梅毒の問題点

梅毒は垂直感染を起こすことがよく知られている。
母体が妊娠初期に梅毒に感染すると流産に至ることが多い。
流産にならなければ、胎盤の完成以降にTreponemaが胎盤感染を引き起こし、その後胎児に移行し、胎児感染を起こす。
胎児期に梅毒に感染すると子宮内胎児死亡になることが多いが、胎児が生存し続けると特徴的な所見を持った先天梅毒が発生する。
Treponemaが経胎盤性に胎児に移行するのは、胎盤が完成する妊娠16週以降である為、早期に発見し適切な化学治療を行えば先天梅毒は予防することが可能である。


◆淋菌感染症

淋菌(Neisseria Gonorrhoeae)は古くからSTDの原因となる病原体として知られているグラム陰性の双球菌で、腎臓様の形態をし、膿性子宮頸管分泌物などの好中球内で見られることが多い。
古典的性病の1つである淋病は、ペニシリンを始めとする各種抗菌薬の開発により一時は著しく減少したが、我が国では昭和50年度以降漸増傾向を示している。
淋菌感染症は、いずれの国においてもクラミジア感染症と同じく頻度の高いSTDで、性別では特に男性に発生頻度が高い疾患である。
女性における淋菌の主たる感染部位は子宮頸管であるが、その他尿道、バルトリン腺、スキーン腺、肛門直腸、子宮内膜、卵管などにも感染する。
感染はほとんど性交によるが、女性は男性より感染のリスクが高い。
すなわち男性は感染を有する女性との性交で20〜25%が感染するのに対して、感染陽性の男性との性交における女性の感染率は80〜90%と報告されている。
女性淋菌感染症は頸管炎、卵管炎を中心とした骨盤内感染症(PID)や、分娩時に産道で垂直感染を起こすことが知られている。

・検査

女性の場合は、帯下を訴えて来院した患者あるいは性状の悪い頸管帯下を認めたときは、淋菌の検索を行う。
淋菌検出のための検体は、まず第一に子宮頸管分泌物を採取する。
その他には尿道、咽頭、直腸や時には関節液から採取するが、検体は直ちに培養検査に提出するか、輸送用培地に採取して保存しなければならない。
検体採取時に直ちに培地に接種できないときは、スワブと液体培地を組み合わせたカルチュレットに採り、乾燥を避ければ24時間以内は生存を確保できるとも言われているので、これで採取する。
更に検査へ提出するまでに時間がかかる際には、輸送用として使いやすいTransgrow培地、Jembec systemや簡易なナイセリア培地等に採取すると良く、これらを用いることにより、淋菌の診断をより確実なものにすることができる。
また免疫学的診断法として淋菌に対する抗体を用いて、死菌であっても検査ができるようにしたゴノザイムがある。
この方法は直腸などからの検体では雑菌との交差反応で時に疑陽性を呈することがあるが、実際の臨床の場では非常に便利である。
更にDNAプローブを用いて特異性を高めた検査法が開発され使用されるようになった。

・治療

ペニシリン系、セフェム系及びニューキノロン系抗菌薬による経口療法が主流である。
しかし近年、PPNG(Penicillin Persist Neisseria Gonorrhoeae ペニシリン耐性淋菌)の出現頻度が増加しており、ペニシリン系抗菌薬の使用は激減した。
ニューキノロン系抗菌薬は淋菌感染症に有用である。
中でも、レボフロキサシン(LVFX クラビット)、シプロフロキサシン(CPFX シプロキサン)は、PPNGを除く淋菌に対しては、300〜600mg/日 の7日間投与で充分な効果が得られる。
但し、最近ニューキノロン系抗菌薬に耐性を示す淋菌が急激に増加しつつあることにも注意が必要である。
セフェム系抗菌薬でも多くの薬剤がPPNGには大抵無効であるが、注射剤ではセフトリアキソン(CTRX ロセフィン 1g/日 7日間)、経口剤ではセフィキシム(CFIX セフスパン 200〜400mg/日 7日間)がPPNGに対してもすぐれた臨床効果を発揮する。


◆クラミジア感染症

クラミジア感染症は、梅毒、淋病に代わり、近年における性病の代表的なもので、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis、C.trachomatis)という細菌によって感染が引き起こされる。
クラミジアは一般細菌と異なり、無細胞培地では増殖することができず、宿主細胞内のみで増殖可能な偏性細胞寄生性小球菌である。
又、C.trachomatisは扁平上皮内では生育することができず、円柱上皮内でのみ生育可能で、細胞に取り込まれ封入体を形成する。
クラミジア感染症は女性に発生する性感染症の中では最も頻度が高いが、自覚症状が乏しいのが特徴である。
しかし、クラミジア感染症が進行すると子宮や卵管の内膜にまで炎症が進展し、不妊症の原因になることもある。
更に進行すると、子宮付属器炎や骨盤腹膜炎等の骨盤内感染症や肝周囲炎(Curtis−Fitz−Hugh症候群)の原因となる。
又、クラミジア感染と流・早産との間に因果関係があることもよく知られている。
最近、クラミジア感染で最も重要なことは、クラミジア感染者においてHIV感染症が健常人の数倍多いことが指摘されていることからも、クラミジア感染者に対しては徹底的に治療を行うことが必要である。
自覚症状としては前述のように乏しく、帯下の増加や排尿痛、あるいは軽い下腹部痛が出現する程度である。

・検査

Chlamydia検出による診断と、これが困難なときに役立つ血清学的診断の2つの方法がある。

a、Chlamydia検出検査

Chlamydyaは子宮頸管や卵管などの上皮内に感染している。
そのためChlamydia検出のための検体としては、感染上皮を十分に採取することが重要で、採取方法はスワブによる擦過が一般的である。
検体採取は少し出血するくらいがよいが、妊婦では不安を与えないように注意する。
尿道、咽頭、卵管なども同様であるが、子宮内膜などではエンドサイトなども用いた方が検出率が上がる。
また男性では、感染のほとんどが尿道炎であるため、尿を検体としても検出可能であるが、女性では、主たる感染部位が異なるので尿のみを検体としてはならない。
多数の検体の出る施設や集中検査所では、酵素抗体法によるクラミジアザイムやイデイアクラミジアが適しているが、結果が出るまでに時間がかかるのでスクリーニングなどに適している。
一方、少数の検体の施設や迅速な検査結果を必要とする時には、酵素抗体法のクラミジアテストパックやクリアビュークラミジア、蛍光抗体法によるマイクロトラッククラミジアなどが適している。
これらの方法では15〜30分で結果が得られ、酵素抗体法では特に設備も必要とせず外来でも検査が可能である。

b、Chlamydiaの血清学的診断

付属器炎などでは、クラミジア抗原検出の検体を感染病巣から採取することは非常に困難である。
このような場合抗体価測定による血清学的診断が参考になる。
間接免疫peroxidase法(イパザイム)やEIA法による血清IgAとIgGが臨床検査で測定できるが、イパザイムの判定はIgA×16(+)及びIgG×64(+)とによって活動性感染と診断できる。
血清学的診断は抗原検出の困難な症例や、骨盤内感染症の経過観察に有用である。
又、スクリーニングなどにも応用できるが、必ずしも抗原の存在と一致しないことがあるので、感染機会の有無や臨床所見を十分考慮しないといけない。

・治療

ニューキノロン系のレボフロキサシン(クラビット 600mg/日)、マクロライド系のクラリスロマイシン(クラリス 400mg/日)、テトラサイクリン系のミノサイクリン(ミノマイシン 200mg/日)などの抗菌薬を2週間経口投与する。
最近、アジスロマイシン(AZM ジスロマック500mg/日 3日間)がその簡便性のためかしばしば処方される。
尚、平成21年4月6日よりアジスロマイシン2000mg単回投与が承認される予定である。
しかし、アジスロマイシン耐性のクラミジアが急速に増加傾向を示していることにも注意が必要である。
クラミジアを始めとする大部分のSTDは感染者本人はもちろんセックスパートナーも同時に治療を行う必要がある。
男女いづれか一方でも治癒していなければ、ピンポン感染により再びお互いに感染し合うことになるので、徹底した治療を行うことが重要である。


◆性器ヘルペス

性器ヘルペスは、単純ヘルペスウィルス(herpes simplex virus、HSV)感染によって発症する。
HSVはT型とU型があり、過去においてはT型は主として上気道を侵し、U型は性器を侵すことが一般的であった。
しかし、最近では性行動の多様化により、性器ヘルペスからT型U型がほぼ同率で検出されるようになった。
性器ヘルペスは感染しても必ず発症するとは限らず、症状としては性器に発症する小水泡やリンパ節の腫張が認められる程度のこともある。
しかし、性器ヘルペスが初感染の場合は、一般的に重篤な症状を呈し、外陰部に潰瘍が形成されるなど激烈な痛みを伴うことが多く、歩行困難に陥ることもしばしば見られる。
ヘルペスは一度感染が成立するとウィルスが脊髄神経節に留まり、風邪、妊娠あるいは悪性腫瘍などのストレスにより抵抗力が減弱したときに再発することが多い。

・検査

本来はウィルスの分離同定を行うことが望ましいが、検査には長時間を要し、しかも操作が煩雑であるため一般的ではない。
そのため、蛍光標識モノクローナル抗体を用いたウィルス抗原検出キット(マイクロトラックヘルペス)を用いることが一般的である。

・治療

初感染の場合、前述のごとく症状が強いときはアシクロビル(ACV ゾビラックス500mg×3/日、7日間)による注射療法がよく行われる。
再発例に対しては、アシクロビル(500mg×2/日、5日間)の内服投与で充分な効果が得られる。
尚、補助療法としてアシクロビルの軟膏やクリームを用いた局所療法を行う。
2007年12月に、新しいウィルス治療薬であるバラシクロビル(VACV バルトレックス)が承認され、臨床の場で使用することが可能となった。
バラシクロビルは、アシクロビルのプロドラッグである。
バラシクロビルは、バリンとアシクロビルがエステル結合しており、エラスターゼによってアシクロビルに変換される。
バリン結合により、体内への吸収率が上昇することにより、経口アシクロビルより生体利用率が向上している。
バラシクロビルは急性期では500mg×2/日、5日間投与で充分な臨床効果が得られる。
又、再発抑制療法としては、バラシクロビル(500mg×1/日、6ヶ月間)の長期投与が最近よく行われ、その有用性が認められつつある。
当院においても再発を繰り返すHPV感染症患者50数例を対象にバラシクロビルの再発防止効果の検討を行った。
その結果、バラシクロビル服用後2〜3日後に症状が著明改善し、患者自身が治癒したものと自己判断し、その後服薬を中止した症例が2例認められた。
しかしこの2例を除く全例にHPVの再感染は認められず、極めて良好な成績が得られた。

・注意点

単純ヘルペスは垂直感染を起こすことがよく知られている。
妊娠中に妊婦の胎盤から胎児に感染が移行したり、経膣分娩時に産道で児に感染することも含まれる。
具体的には、妊娠末期に膣内の分泌物検査を行い、U型ウィルスが検出された場合、経膣分娩を行うと新生児にヘルペス感染症が発症し、その致死率は約50%ときわめてリスクが高い。
従ってこのような場合においては必ず帝王切開を行うことが必要である。


◆尖圭コンジローマ

HPVの感染によるもので、男性では性器に、女性では外陰部、肛門周囲に多数のイボ状の疣贅が発生することが多いが、膣内や子宮頸部に発生することもある。
更に、症状が進行すると多数の疣贅が集合し、カリフラワー状の腫瘍を形成する。
HPVには約100種類以上の型が存在するが、尖圭コンジローマの場合は良性の6型、11型が原因ウィルスとなることが多い。
2007年12月、イミキモド(ベセルナ)クリームによる局所療法が認可され、一般臨床の場でも使用することが可能となった。
イミキモドは従来の抗ウィルス薬とは異なりその作用機所は独特で、直接ウィルスの増殖を抑制したり攻撃するわけではない。
即ち、イミキモドはサイトカインの産生促進によるウィルスの増殖抑制作用とウィルス抗原を認識して攻撃する獲得免疫を賦活化することにより、ウィルス感染細胞に障害を与えることによって疣贅を始めとする病巣部を治癒させるなどの効果を発揮する。

・検査

簡便な方法としては細胞診検査が挙げられる。
細胞診により、表皮突起部位の顆粒層に濃縮した核と細胞質が空胞化した特徴的な空胞細胞(コイロサイトーシス)が認められれば、HPVによる感染であると判断することができる。
他に、HPVを検出する方法にはPCR法とHybrid Capture(HCU)法の二法がある。
HCU法では、良性群と悪性群の大まかな判別が可能である。
更にHPVの遺伝子型を正確に判定するにはDNAチップ法が欠かせない。

・治療

ガイドライン2008によると、HPV感染症治療のファーストラインとして、液体窒素を用いた凍結療法、電気メスによる電気焼灼法およびイミキモドクリームによる局所療法が認められている。
尚、セカンドラインとしては炭酸ガスやホルミウムレーザーを用いた蒸散術やインターフェロンの局所注射がある。
又、従来より使用されてきた5−Fuとブレオマイシンが削除された。
当院においてもイミキモドクリームによる局所療法を20数例の症例に使用し、その臨床効果の検討を行った。
その結果、イミキモドクリーム塗布後充分な効果が得られず投与を中止した1例を除く全例が極短時間で著明改善し治癒に至った症例と、治癒に至るまで約7日間とかなりの日数を要した2つのグループに分けることができた。
尚、効果判定の点からは全例が有効以上であった。
しかし、今回行った検討は症例数が少ない為、今後症例数を増やし、更に検討して行く予定である。
最後に、尖圭コンジローマは、治療は比較的簡単であるが非常に再発しやすいので、徹底的に治療を行うことが必要である。

・注意点(特に発がんとの関係について)

子宮頸がんの発生とHPV感染症との間に因果関係があることはもはや疑う余地のない事実である。
その為、最低年1回は子宮癌検診を行うべきである。
その時、悪性のHPVが検出されれば先ずHPVのタイピング検査を行い、悪性群が検出されればその後は極めて厳重な管理が必要である。
発がんに関与するHPVの型は悪性の16型、18型が大部分である。
尚、子宮頸がんの発生予防として、2種類の異なるワクチンが世界を代表する製薬メーカー2社において各々開発に成功した。
一方のワクチンはHPV16、18型のみに効果を発揮するが、他方のワクチンはHPV16、18型に加え、尖圭コンジローマの原因である6、11型に対しても効果を発揮する。
この2つのワクチンは海外では既にその有用性が認められており、米国を始め80以上の国において実地臨床の場で実用化されている。
しかし我が国においては現在承認待ちの段階にあり、近い将来臨床使用が許可される予定である。


◆HIV感染症(エイズ)

ヒト免疫不全ウィルス(human immunodeficiency virus、HIV)の感染による流行性伝染性レトロウィルス病である。
HIVは1980年以降に発見された5つのレトロウィルスのうち3番目のものである。
レトロウィルスは逆転写酵素という酵素を持っており、これがウィルスRNAをDNAにコピーし、そのDNAが宿主細胞のDNAに組み込まれる。
HIV特有の点は、我々の免疫系を作動させて増幅させるヘルパーT細胞の中でも特に表面にCD4という蛋白質を持っているCD4リンパ球に好んで付着することである。
一旦ヘルパーT細胞の中に入り込むと、ウィルス自身のRNA(遺伝子鋳型)を放出すると同時に、そのRNAを細胞自体のDNAに転写させることのできる酵素を作り出す。
その結果、変化したヘルパーT細胞の子孫は全てウィルスの遺伝暗号を保有し、新たな感染性ウィルスの製造拠点となる。
全世界の国々がHIV感染症の撲滅に力を注いだ結果、その発生率は徐々に低下しつつある。
しかし先進国の中で我が国だけがHIV感染症のみならずエイズの発症が未だ増加傾向にあることは深刻に受け止めなければならない。
又、HIV感染症からエイズを発症するまで、潜伏期間が数ヶ月〜10年以上と長いのが特徴で、その期間はほとんど無症状である。
この間にエイズの発症を少しでも遅らせるために後述の逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤との併用療法が行われている。
しかし症状が進行するとHIVによるCD4陽性ヘルパーT細胞の減少が起こり免疫不全状態に陥り、健康であればほとんど害のない日和見菌やウィルスの感染、あるいは悪性疾患により死に至る。
尚、参考として表2にエイズの進行期と症状を示した。

表2
急性期
感染すると一部の人には急性感染症状として風邪によく似た症状が呈する
場合がある。
しかしほとんどの人は無症状である。
無症状期
その後、全く症状のない状態が続く。
この時期の感染者を無症候性キャリアと呼ぶ。
この期間は個人差が大きく、数ヶ月から10年を超える場合がある。
前駆症状期
潜伏期間を過ぎると前駆症状として、リンパ腺の腫れ、持続する発熱・下
痢、体重の減少、倦怠感、寝汗などの症状が見られるようになる。
そして全身が徐々に消耗し、エイズ発症を予感させる状態に陥る。
エイズ発症
症状が更に進行すると、カリニ肺炎、カンジダ症といった日和見感染症、カ
ポジ肉腫、脳症、痴呆症などの神経障害など重篤な疾患が生じる。
これらが発症した状態をエイズという。


感染ルート

感染経路には以下に述べる3つが挙げられる。

1、SEXによる感染

異性間のSEXによる感染が圧倒的に多い。
その為コンドームを用いたセイファーセックスを行うことが推奨されている。
エイズ発見直後に問題となった男性同性愛間における感染は少ない。

2、血液からの感染

HIVに汚染された血液を輸血することによって起こる。

a、輸血

我が国の輸血用血液においてHIVはほとんど全部が除去されているが、100%安全とは言い切れない。

b、HIVに汚染された注射針の誤刺、あるいは薬物中毒者間でよく見られる共用によるものが挙げられる。

この場合HIVが直接血管内に入るため、感染率は極めて高い。


3、母子感染

母から子による垂直感染を意味し、HIV陽性妊婦により児に感染が移行する。
即ち、妊娠中にHIV陽性妊婦から子宮内における胎児への感染、あるいは出生時、又は出生直後の母児間の感染のことも含まれる。
HIV陽性妊婦から出生した子供の約56%以上がHIV感染を発症し、しかも全体の3分の1の子供が死亡に至るという報告が見られる。
一方、妊婦にHIV感染が判明していても適切な処置を行えば母子感染を予防できるとの意見もある。
この意見を支持するデータとして、HIV感染妊婦が通常の経膣分娩をした場合では母子感染率は29.4%であったが、帝王切開の場合ではわずか1.6%に低下したとの報告がある。
尚、母乳による感染も数が少ないものの存在し、広い意味での垂直感染と解釈されている。

・検査
a、一般検査

一般検査として、最初にHIV抗体スクリーニング検査法であるPA法(ゼラチン粒子凝集反応)やEIA法(エンザイム イムノアッセイ)で検査を行い、陽性になったものについてはHIV確認検査法であるWB法(ウェスタンブロット法)を用いる。
スクリーニング検査ではHIVに感染していないにも拘らず、たまたまHIVと反応する抗体を持っていて検査結果が疑陽性となる人が1000人に2〜3人いるからである。

b、即日検査

@HIV抗体迅速検査

HIV抗体迅速診断キットを用いて検査を行い、検査当日に検査結果が判明する検査法である。
検査は15分から20分程度で結果が出るので、通常の1〜2週間を要する抗体検査法と異なり、結果をすぐに確認することができる。
HIV抗体迅速検査は、通常の抗体検査法とほぼ同じ性能であるが、あくまでスクリーニング検査法の一つである。
そのため迅速検査で陰性の場合には、結果は陰性として確定する。
しかし、迅速検査で陽性の場合には、異なる方法を用いた確認監査が必要となるため、後日(通常は1週間〜2週間後)、改めて確認検査が必要となる。

AHIV(NAT)検査

HIV(NAT)検査とは核酸増幅検査のことで、HIVの遺伝子を増幅することによりHIVの検出を行う。
HIVに感染するとまず体内でHIVが増え、その後HIVに対する抗体が作られる。
通常のPA法やEIA法では血中にHIV抗体があるか否かを調べるが、NAT検査では抗体が作られる前から増加している血中のHIVを検出する。
感染してから検査で陽性化するまでの期間をウィンドウ期間と言うが、NAT検査では一般の抗体検査に比べこのウインドウ期間を約2週間短縮することができる。
従って、感染初期の非常に早い時期においてはNAT検査が特に有用である。
つまり、HIV感染のリスクのある行為後2〜3週間しか経過していないため抗体検査では感染を証明できない時期でも、NAT検査では感染を証明することができるという利点を有する。
但し、HIV感染では、通常、感染の2〜3ヶ月後には抗体が検出され、その後は高い抗体価が持続するので、通常のHIV検査法としては抗体検査がもっとも一般的で信頼性も高い方法と言える。

(HIV検査のホームページより)

・治療

FDAは、次世代のエイズ治療薬として注目されている蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)阻害剤を、既に認可済みのアジドチミジン(azidothymidine AZT)などの核酸系逆転写酵素阻害剤と併用することを条件に承認した。
免疫細胞の入ったエイズウィルスが増殖する際に働くプロテアーゼの働きを阻害する作用があり、その結果HIVの増殖を食い止める。
又、プロテアーゼ阻害剤は副作用が少ないことが大きな特徴である。
ここ数年、HAART法(Highly Active Anti−Retroviral Therapy)と呼ばれる逆転写酵素阻害剤である従来の二剤とプロテアーゼ阻害剤一剤を使う三剤併用療法が全世界の国々で使用されるようになり、各国のエイズの発症のみならず死者の減少にも大きな効果を上げている。
ところが、HAART法という表現ではなく、最近ではART(Anti−Retroviral Therapy)法と呼ばれる機会が増加している。
又、FDAは2008年6月、非核酸系逆転写酵素阻害剤という全く新しい治療薬を承認した。
この新薬は、これまでの薬と違って大量に服用することが可能で、ウィルスに大きな障害を与えることができる。
この新薬を第一世代の核酸系逆転写阻害剤と併用することにより、感染者の約7割においてウィルスがほとんど消失したという報告もある。


◆終わりに

STDの感染を減らすために最も重要なことは、不特定多数の相手と性交渉を持たないことが基本中の基本である。
感染予防の手段としては、先ずコンドームの使用が簡単であり、しかも有効率も高い。
STDの病原体は血液、精液、膣分泌物等に多量に存在するので、これらと直接接触しないよう心掛ける。
STDは若年層に多い傾向があるが、年齢に拘らずSEXの経験のある人なら誰でも感染のリスクがある。
STDの発生率を男女別に見ると、大部分のSTDにおいて女性の方が男性よりも約1.5倍多く発生し、しかもSTDによって受ける障害がより大きい。
従って、STDの感染予防を行う際、最も重要なことは女性自身の自覚の向上にあると言っても過言ではない。





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